揺れる湖の水面

ドラマ作品や役者さんの魅力について紹介していきます

「スカーレット」から溢れる人間味と厳しい現実

こんにちは。

今日も昨日に引き続き、2019年9月〜2020年3月に放送されていた、朝ドラスカーレットについて書いていこうと思います!

 

昨日は、「スカーレット」の物語の描き方の中でも、「人生の転換点」と「日々の日常」にスポットライトを当てて、今までの朝ドラとの違いを考えて見ました。

 

今日は、「スカーレット」の登場人物のキャラクター、そしてそのキャラクターの描かれ方に焦点を当てて、今までの朝ドラとの違いや、本作の魅力をお伝えできればいいなと思っています!

 

登場人物から溢れる「人間味」

朝ドラと言えば、やっぱりみんなに好かれるような主人公がいて、その周りの家族や人々も良い人ばかり。そんな印象を抱いていました(これは全く悪い意味ではないです。)

 

しかし、「スカーレット」の登場人物のキャラクターや描かれ方は、どこか違っていたように思うのです。それは、キャラクターのリアルな「人間味」ではないでしょうか。

 

「喜美子」

主人公の喜美子。真っ直ぐで、周りの人への思いやりもある、本当に良い子です。

小さい頃からいつも家族の幸せを考え、自分の思いを犠牲にすることも多かった。

けれど、喜美子は今までの朝ドラで描かれてきた「良い子」とは違うように思います。

 

喜美子は時々、抑えきれなくなった感情や、欲求を爆発させる場面がいくつか描かれていました。例えば、父の猛反対を受けながらも、芸術の学校に通いたいと懇願したり。数年間お金にならない絵付けの修行をしたいと家族にお願いしたり。周りの反対を受けながらも、大金をつぎ込んで穴窯を続けたり。

 

特に、夫婦のすれ違いから離婚を描いていた場面では、子供の将来のためのお金を使って穴窯を続けようとする喜美子に対して反感や、違和感、嫌悪感を抱いた視聴者もいたようです。

 

時に、決して共感できない(あるいはしたくない?)ような行動が、喜美子にはありました。

しかし、そういった言動とともに、なぜそのような言動をとるのかと言う思いや前後の展開を丁寧に描くことで、その言動こそが、本作で喜美子の「人間味」をリアルに描く土台となり、より魅力的な人物にしていたのだと思います。

 

「父・常治」

主人公・喜美子の父である常治。厳しくて、不器用で、言葉足らずで、頼り甲斐があるようで、どこか頼り甲斐がない。だけど、いつも家族のことを考え、誰よりも家族一人一人の幸せを願っている。

 

時に子供に理不尽な決断を押し付ける父に対して、反感を抱く場面は多かったように思います。けれど、父はいつも、現実の厳しさをありのままで喜美子に教えてくれる存在でした。

 

父・常治の言動の中で、最も印象的に残っている場面があります。↓

 

喜美子

「フカ先生は長崎行って絵付けを一から学ぶんや!挑戦や、お父ちゃんわかる?どんなすごいことか?幾つになっても学ぼうとしてるんやで。若い人の下で、弟子になるんやで。そんなんできる?自分の好きなこと追いかけて!フカ先生は、フカ先生はすごい先生や。」

 

「喜美子。お前は世間の何を知っとる?世間のどんだけの人間が、やりたいことやってると思う?好きなこと追っかけて?そんなんで食べていける人間どんだけおる?運送の仕事な、ただのいっぺんも、楽しい、好きやわ〜、好きでたまらんわ〜、思うたことないで。思うわけないわ。仕事やもん。稼がんならんから、一生懸命やる。ほんでもな、ほんでも、家庭科の先生なりたい言う娘の願いも、叶えてやれへん。ここだけの話、ほんま情けない。もしお前が深野先生のような人間だけが、素晴らしい人間や思うんやったら・・・出てってくれ。出てけ!出てけ!」

 

喜美子はこの発言を聞いてハッとしたはずです。申し訳ないと思ったはずです。父の思いを、今まで父がしてきてくれたことを、否定するような配慮のない発言をしてしまったのだと。

 

悔しさや情けなさ、好きなことをして食べていける人に対する憧れや劣等感。様々な負の感情が父の中で渦巻いていたのだと思います。喜美子がそんな自分が引け目や情けなさを感じている部分に切り込むような発言をしてしまったことで、こうした感情が爆発しました。

 

本作の前半において、喜美子の物語に大きな魅力を与えていたのは、こうした父常治の存在だったように思います。

 

誰しも自分の中に、様々な負の感情が渦巻いています。

劣等感だったり、嫉妬だったり、たくさんの感情があります。

 

そうした人間の中で渦巻く負の感情にも決して目を背けずに、リアルに描き出す。

厳しくて辛い現実も、それを取り巻く人々の感情とともに丁寧に描き出す。

 

こうした描き方が、登場人物一人一人のリアルな人間味をグッと増し、時に見ているのがつらいほどのリアルな世界を作り出していたのだと思います。

 

だからこそ、父常治の死は、誰もが心の中にぽっかりと穴が空いたかのような、感情を抱かせたのだと。決して、喜美子も常治もただの良い人ではないし、理解できない言動も多々ありました。けれど、そう行った言動こそが、スカーレットを「人間味溢れるリアルな世界」へと昇華させたのだと、思います。

 

主人公が努力して、成功していく、いわゆる王道サクセスストーリーの朝ドラもいいですが、人間味溢れる厳しいリアルな現実を教えてくれながらも、温かい毎日の日常を伝えてくれる「スカーレット」の世界。新たな朝ドラの世界を切り開いたのではないでしょうか!?